一九七七年の夏、キョースケは独り、北の地を目指して走っていた。カワサキの二五〇CCに跨って。 大学四年生の六月という大事な時期に、何もかも振り捨てて出かけた貧乏旅行。出だしから雨だ。「北海道には梅雨がない」そう聞いて出発したのに、なんだ、東北はずっと梅雨じゃないか! やっと上陸した北海道は晴天続き。キョースケには目的地はない、何の制約もない。でも金もない。途中で知り合った人たちの親切で酒と宿を得て、先へ先へとオートバイを走らせる。だが、襟裳岬の先で転倒。パーツ修理を余儀なくされる。お金ないのに……。 ここからキョースケのアルバイト人生が始まる。牧場の糞掃除、サイロの建設、土産物屋の住み込み店員、ユースホステルの「ヘルパーのヘルパー」etc. これはもう、ツーリングというより〈出稼ぎ〉だ。 だけど、この出稼ぎ旅の収穫は〈カネ〉ではなかった。キョースケは呆れるほどたくさんの人々と出会い、触れ合いを重ねていく。そしてまた、その相手たちときたら、誰も彼もケッタイな連中ばかりなのだった。 「人助け」と「童貞喪失」を同時に夢見る大阪の浪人ライダー、幸せと病んだ父との板ばさみで酔いつぶれるスナ
一九七七年の夏、キョースケは独り、北の地を目指して走っていた。カワサキの二五〇CCに跨って。 大学四年生の六月という大事な時期に、何もかも振り捨てて出かけた貧乏旅行。出だしから雨だ。「北海道には梅雨がない」そう聞いて出発したのに、なんだ、東北はずっと梅雨じゃないか! やっと上陸した北海道は晴天続き。キョースケには目的地はない、何の制約もない。でも金もない。途中で知り合った人たちの親切で酒と宿を得て、先へ先へとオートバイを走らせる。だが、襟裳岬の先で転倒。パーツ修理を余儀なくされる。お金ないのに……。 ここからキョースケのアルバイト人生が始まる。牧場の糞掃除、サイロの建設、土産物屋の住み込み店員、ユースホステルの「ヘルパーのヘルパー」etc. これはもう、ツーリングというより〈出稼ぎ〉だ。 だけど、この出稼ぎ旅の収穫は〈カネ〉ではなかった。キョースケは呆れるほどたくさんの人々と出会い、触れ合いを重ねていく。そしてまた、その相手たちときたら、誰も彼もケッタイな連中ばかりなのだった。 「人助け」と「童貞喪失」を同時に夢見る大阪の浪人ライダー、幸せと病んだ父との板ばさみで酔いつぶれるスナ