「世界の果てにある食堂の物語」を書きあぐねていた作家である「私」がふとしたきっかけで知ったのは、幻のイギリス人作家の存在と、彼が残したメモに列挙された「6桁、あるいは7桁の数字」の謎。その謎に私はひらめいた。「メモの数字は、ビートルズの〈ホワイトアルバム〉初回プレス版にうたれた通し番号だったのではないか?」 その思いつきをきっかけに、私は「ホワイトアルバム」を持っている人々に思い出話を聞いて回るようになる。 本書は、架空の書物や地図、架空の機械の解説書やパッケージなどを創作するユニット「クラフト・エヴィング商會」の物語作者である吉田篤弘が、正体を明かして書く初の本格的な小説である。ジョン・レノンを待たせた男、巨大な白鯨の幻想に捕らわれた詩人、レインコート博物館に住む奇妙な一家の話に、テイクアウトのピザに初めて外国を感じた10歳の私の物語。ビートルズの「ホワイトアルバム」をカギに、いつしかひとつの物語へと連なっていく16の短編は、どこまでが虚構の世界で、どこまでが現実なのか、その境界があやふやになる不思議な感覚へと私たちを導いてくれる。 本の帯とカバーとをはずすと、そこに現れる表紙は、ホワイトアルバムさながらに白い。著者自身の手による装丁までもがそんな遊び心にあふれた本書は、謎めいていて、どこかなつかしい。(小山由子)
「世界の果てにある食堂の物語」を書きあぐねていた作家である「私」がふとしたきっかけで知ったのは、幻のイギリス人作家の存在と、彼が残したメモに列挙された「6桁、あるいは7桁の数字」の謎。その謎に私はひらめいた。「メモの数字は、ビートルズの〈ホワイトアルバム〉初回プレス版にうたれた通し番号だったのではないか?」 その思いつきをきっかけに、私は「ホワイトアルバム」を持っている人々に思い出話を聞いて回るようになる。 本書は、架空の書物や地図、架空の機械の解説書やパッケージなどを創作するユニット「クラフト・エヴィング商會」の物語作者である吉田篤弘が、正体を明かして書く初の本格的な小説である。ジョン・レノンを待たせた男、巨大な白鯨の幻想に捕らわれた詩人、レインコート博物館に住む奇妙な一家の話に、テイクアウトのピザに初めて外国を感じた10歳の私の物語。ビートルズの「ホワイトアルバム」をカギに、いつしかひとつの物語へと連なっていく16の短編は、どこまでが虚構の世界で、どこまでが現実なのか、その境界があやふやになる不思議な感覚へと私たちを導いてくれる。 本の帯とカバーとをはずすと、そこに現れる表紙は、ホワイトアルバムさながらに白い。著者自身の手による装丁までもがそんな遊び心にあふれた本書は、謎めいていて、どこかなつかしい。(小山由子)